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2028年の株式評価改正と医療法人出資持分~今動くべきかを判断~


続編シリーズもいよいよ最終回です。第1回から第3回まで、医療法人の出資持分を「役員退職金で評価を下げる」「持分なし医療法人へ移行する」という2つのルートで整理してきました。

本記事では、その背景にある2028年予定の株式評価ルール改正が、医療法人の出資持分にどう影響しうるのかを正面から扱います。

ただし最初にお断りしておきます。

改正の具体的な内容と適用時期は、2026年6月時点でまだ確定していません。国税庁の有識者会議が議論を進めている段階です。

本記事は確定情報の解説ではなく、「現時点でわかっていること」と「いくつかのシナリオ」を整理し、理事長・後継者が今どう構えるべきかを考えるためのものです。

この記事でわかること(2026年6月時点)

・2028年予定の株式評価改正の現在地(国税庁有識者会議の議論状況)

・なぜ改正が医療法人の出資持分評価にも波及しうるのか(評基通194-2の連動)

・改正前後で評価がどう動きうるかのシナリオ比較

・退職金・移行を含めた「今動くべきか」の判断軸とシリーズ総まとめ

なお本記事の前提は経過措置型医療法人(持分あり医療法人)です。

2028年の株式評価改正とは何か

国税庁の有識者会議が議論を進めている段階

国税庁は2026年4月に「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を立ち上げ、非上場株式の相続税評価ルールの抜本的な見直しに向けた議論を始めました(国税庁「『取引相場のない株式の評価に関する有識者会議』の開催について」令和8年4月16日)。

会議は同年4月20日の第1回を皮切りに、5月・6月と回を重ねています。

見直しの背景には、評価方式の間に生じる評価額のかい離(同じ会社でも計算方法によって評価が大きく変わること)や、長年見直されていない計算要素への指摘があるとされています。

類似業種比準方式が純資産価額方式に比べて低く出やすい構造が株価対策に利用されている、という問題意識が議論の出発点です。

想定スケジュール(適用時期は未確定)

報道や会議資料をもとにした一般的な見通しでは、2026年中に議論を整理し、2027年に財産評価基本通達の改正案がパブリックコメントにかけられ、2028年(令和10年)1月1日以後の適用が見込まれています。

ただし、これはあくまで現時点での見込みであり、確定したスケジュールではありません。

改正の有無・中身・時期は今後の議論次第で変わり得ます。最新の情報は国税庁の公表資料でご確認ください。

シリーズ第1弾「非上場株式の評価が変わる!2028年改正の背景とスケジュール」もあわせてご覧ください。

なぜ医療法人の出資持分にも波及するのか

「これは一般の中小企業の話で、医療法人には関係ない」と思われるかもしれません。しかし、そうとは言い切れません。

医療法人の出資持分は、財産評価基本通達194-2により「取引相場のない株式(出資)の評価に準じて評価する」と定められています(国税庁・財産評価基本通達194-2)。

つまり医療法人の持分評価は、一般の自社株評価の枠組み(類似業種比準方式・純資産価額方式・斟酌率・会社規模区分)を借用して計算しています。

したがって、改正が類似業種比準方式の計算方法・斟酌率・規模区分などに及べば、それらを準用している医療法人の出資持分評価にも同じ方向の影響が及びうることになります。

医療法人は配当ができないため比準計算は配当を除く2要素のままですが(詳しくは続編第1回)、土台となる計算ルールが動けば無関係ではいられません。

改正前後シナリオ比較

改正内容が未確定である以上、断定はできません。ここでは「起こりうる方向性」を2つのシナリオに分けて整理します。いずれも確定した予測ではなく、備えを考えるための仮の見取り図としてご覧ください。

 

シナリオ①:評価が上がる方向(かい離縮小)

見直しの方向性が「評価方式間のかい離を縮める」ことにあるとすれば、これまで低めに出ていた類似業種比準方式の評価が純資産価額方式に近づき、結果として併用評価額が上昇する可能性があります。

この場合、類似業種比準方式の比重が大きい法人ほど影響を受けやすく、医療法人の出資持分も評価が重くなる方向に動きうると考えられます。

シナリオ②:大きく変わらない/段階的な措置

一方で、急激な評価上昇は事業承継や中小企業経営に大きな影響を与えるため、経過措置や段階的な適用、対象の限定が設けられる可能性も十分にあります。

この場合、影響は限定的・緩やかになり、慌てて動く必要は小さくなります。

医療法人持分への影響イメージ

どちらのシナリオでも、医療法人の出資持分は評基通194-2を通じて一般法人の改正の影響を受けます。

ただし医療法人特有の「配当を除く2要素計算」という構造は維持される見込みで、影響の出方は一般法人と完全には一致しません。

「一般の自社株が上がるなら医療法人も同率で上がる」とは限らない点に注意が必要です。

今動くべきか|3つの判断パターン

「改正で評価が上がるなら、その前に動くべきでは?」というのは自然な発想です。

ただし、改正が未確定である以上、焦って動くこと自体にもリスクがあります。判断は次の3パターンで考えると整理しやすくなります。

  1. 改正前に動く:評価上昇シナリオに備え、現行ルールのうちに退職金での評価圧縮や持分移転、認定医療法人制度による移行を進める。後継者が決まっていて方向性が固まっている法人向き。
  2. 方向性が見えてから動く:2026年末〜2027年の大綱・パブコメで改正の中身を見極めてから判断する。拙速な対策で本業の資金を損なうリスクを避けたい法人向き。
  3. 本業を優先し、無理に動かない:承継の必要性が当面薄い、または改正の影響が限定的と見込まれる法人。評価対策のために本業をおろそかにしない、という考え方です。

どのパターンが正解かは、後継者の有無・理事長の引退時期・法人のキャッシュ・地域医療における役割によって変わります。

「改正が来るらしいから」という理由だけで一律に動くのは、所長として最もお勧めしない判断です。

詳しい判断の考え方はシリーズ第4弾「2028年の改正前に動くべき?事業承継・相続への影響と判断のポイント」もご参照ください。

シリーズ総まとめ:医療法人持分の承継ロードマップ

本シリーズで扱ってきた打ち手を、一つのロードマップとして統合します。

ケーススタディ:シリーズを踏まえた統合的な進め方(モデルケース)

※以下は理解のためのモデルケースです。実在のクライアントの情報ではありません。実際の進め方は法人の状況により異なります。

  1. 現状把握:まず出資持分の評価額と将来の相続税を試算する(続編第1回)。「重さ」を数値で把握しないと打ち手は選べません。
  2. 退職金の検討:理事長の勇退時期に合わせ、適正額の範囲で退職金を設計し評価を圧縮する(続編第2回)。功績倍率・同業類似法人比較・医療法54条に注意。
  3. 移行の検討:後継者の有無や持分への考え方を踏まえ、認定医療法人制度による移行も比較する(続編第3回)。不可逆性・6年要件とセットで判断。
  4. 改正動向の織り込み:2026年末〜2027年の改正動向を見ながら、上記1〜3のタイミングを年単位で調整する(本記事)。

この4ステップは「順番に全部やる」ものではなく、法人の状況に応じて取捨選択し、改正動向を見ながら組み合わせるものです。

一貫しているのは、本業(医療提供)の継続を最優先に、理事長のライフプランと後継者の経営体力を踏まえて長期で設計するという姿勢です。

よくある質問

Q1. 改正は本当に2028年から始まるのですか?

A. 2028年1月以後の適用は現時点での見込みであり、確定したものではありません(2026年6月時点)。

国税庁の有識者会議が議論を進めている段階で、改正の有無・中身・時期は今後変わり得ます。最新の公表資料・税制改正大綱でご確認ください。

Q2. 改正で医療法人の出資持分の評価は必ず上がりますか?

A. 「必ず上がる」とは言えません。

評価が上がる方向のシナリオもあれば、経過措置や段階的適用で影響が限定的になるシナリオもあります。

医療法人は配当を除く2要素計算という独自構造のため、一般法人と同じ動きになるとも限りません。シナリオを複数想定して備えるのが現実的です。

Q3. 改正前に慌てて退職金や移行を進めるべきですか?

A. 一律にお勧めはしません。

改正が未確定の段階で拙速に動くと、本業の資金を損なったり、不可逆な選択を急いで後悔したりするリスクがあります。

後継者の有無・引退時期・キャッシュを踏まえ、「改正前に動く/方向性を見てから動く/動かない」の3パターンから自院に合うものを選ぶことをお勧めします。

まとめ|次のアクション

  • 2028年予定の株式評価改正は、評基通194-2を介して医療法人の出資持分評価にも波及しうる(ただし改正内容・時期は2026年6月時点で未確定)
  • 評価が上がる方向のシナリオも、影響が限定的なシナリオもあり、複数シナリオで備えるのが現実的
  • 「今動くべきか」は3パターン(改正前に動く/方向性を見てから/動かない)で、後継者・引退時期・キャッシュから判断する
  • 退職金(第1・2回)・移行(第3回)・改正動向(本記事)を統合し、本業優先で年単位のロードマップに落とし込む

次のアクション:①現時点の出資持分評価額と相続税を試算し自院の「重さ」を把握する ②退職金・移行の選択肢を自院の状況に当てはめて比較しておく ③2026年末の税制改正大綱・2027年のパブコメで改正の方向性を確認する ④焦って動かず、改正動向と承継計画をセットで顧問税理士と定期的に見直す

株式評価改正は不確実性を含むテーマだからこそ、不確かな情報に振り回されず、事実とシナリオに基づいて落ち着いて備えることが大切です。

医療法人の出資持分の承継について、自院に合ったロードマップづくりは医業に強い税理士にご相談ください。

本シリーズが、その第一歩のお役に立てば幸いです。

関連記事:本シリーズ続編第1回「医療法人の出資持分は退職金でいくら下がる?評価と承継の現実解」、第2回「医療法人理事長の役員退職金|功績倍率と否認事例から見る適正額」、第3回「持分なし医療法人への移行と退職金対策|どちらを選ぶか判断軸」(いずれも公開後にURLを追記)、株式評価改正シリーズ第1弾「非上場株式の評価が変わる!2028年改正の背景とスケジュール」もあわせてご覧ください。


この記事の監修

税理士法人昴 所長・税理士 山根和彦

医業に特化した税務・経営支援。医療法人の設立・節税・事業承継・相続対策を多数支援。

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※ 本記事の数値・税率・制度内容は2026年6月時点の情報です。株式評価改正は議論段階であり、改正の有無・内容・適用時期は確定していません。最新の国税庁公表資料・通達・税制改正大綱をご確認ください。個別の状況により取扱いは異なります。実際のご検討にあたっては税理士・所管庁にご相談ください。