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2026.09.05
MS法人の委託料はいくらが適正か~否認リスクと調査の見られ方~
MS法人の委託料はいくらが適正か|否認リスクと調査の見られ方
MS法人への委託料はいくらが適正か。前回、MS法人の役割と設計を整理したときに、この論点は次回に送ると書きました。
実務でいちばん質問が多いところです。先に結論を申し上げると、「年間いくらまでなら安全」という金額の線引きはありません。税
務上問われるのは金額の大きさではなく、その金額を業務の実態で説明できるかどうかです。
条文と実際の裁決から、その中身を見ていきます。
この記事でわかること
- 委託料が過大なときに、税務上どの条文でどう扱われるのか
- 「同族会社の否認」が医療法人そのものに及ぶのかどうか
- 税務調査で実際に見られる3つの証跡と、その揃え方
MS法人の委託料に「相場」の正解はない
「同業の相場はいくらですか」と聞かれることがあります。
参考になる水準はありますが、それを持ってきても答えにはなりません。
同じ月50万円でも、常勤2名が毎日実務を行っている場合と、契約書だけあって実際の作業がほとんどない場合とでは、税務上の評価はまったく違うからです。
判断されるのは、業務の実態と対価が対応しているかどうかです。
この一点に尽きます。逆にいえば、実態を説明できる資料が揃っていれば、金額そのものが直ちに問題になるわけではありません。
適正な金額をどう説明するかという論点は、役員退職金にも共通します。
功績倍率の考え方は医療法人理事長の役員退職金~功績倍率と否認事例から見る適正額~で扱っています。
MS法人の役割と設計の基本については、前回の記事「MS法人とは|医療法人でできないことを補う設計と注意点」をご覧ください。
※ 本記事の制度内容は2026年10月時点のものです。税制は改正されることがあります。
委託料が過大なとき、超過部分は寄附金になり得る
過大な委託料が問題になるとき、実務でまず持ち出されるのが寄附金の規定です。
法人税法第37条第7項は、寄附金の額を次のように定めています。
前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(略)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。
注目していただきたいのは、冒頭の「いずれの名義をもつてするかを問わず」という部分です。
契約書に「業務委託料」と書いてあっても、それだけで寄附金ではないことにはなりません。
役務の対価に見合わない部分があれば、実質的には無償の供与ではないかという見方が入ってきます。
国税不服審判所も、令和5年3月8日の裁決で、この条文の読み方を示しています。
法人税法第37条第8項は、資産の低廉譲渡等による実質的な贈与の場合について定めたものであるが、逆に、資産の譲受けに当たり時価よりも不相当に高い対価を支払うことにより相手方に実質的に贈与を行う場合にも、当該時価相当額の超過部分をそのままにしておくと、減価償却費や譲渡原価等に形を変えて損金算入される結果となることは資産の低廉譲渡等の場合と同様であるから、同条第7項により、当該超過部分の金額は寄附金の額に含まれると解するのが相当である。
安く売った場合を定めた第8項の裏返しとして、高く払った場合は第7項で拾う。そう整理する理由も書かれています。
超過部分をそのままにしておくと、原価などの形に姿を変えて損金に落ちてしまうからです。
この裁決は商品の仕入れをめぐる事案ですが、この理由は委託料でも変わりません。
そして寄附金に当たるとされた場合、その全額が費用になるわけではありません。
同条第1項は、資本金の額や所得の金額をもとに政令で計算した損金算入限度額を超える部分は「損金の額に算入しない」と定めています。
つまり、支払った現金は出ていくのに、その超過部分は税務上の費用にならない。二重に痛い形になります。

なお、低すぎる場合にも別の問題が生じます。
MS法人にほとんど利益も実態も残らない状態は、その会社が名目上のものではないかという疑いにつながります。
前回扱った役員兼務の例外要件も、「契約の内容が妥当であると認められること」を満たす必要がありました。
委託料の水準は、税務だけでなく医療法上の説明にも効いてきます。
「同族会社の否認」は医療法人に及ぶのか
MS法人の解説では「同族会社の行為計算否認がある」と説明されることがよくあります。ここは条文を見ておく価値があります。
法人税法第132条第1項は、否認の対象となる法人を次の2つに分けて挙げています。
一 内国法人である同族会社
二 イからハまでのいずれにも該当する内国法人
第1号の「同族会社」は、法人税法第2条第10号で「会社の株主等の3人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の50を超える……株式又は出資を有する場合におけるその会社」と定義されています。
会社を指す言葉です。医療法人は会社ではありません。
ただし、第1号だけを見て終わりにはできません。
第2号は、①3以上の支店・工場その他の事業所を有すること、②その事業所の2分の1以上で、所長等が前にその事業所で個人として事業を営んでいた事実があること、③その所長等が保有する「株式又は出資」が3分の2以上であること、のすべてに該当する内国法人を挙げています。
条文が「出資」と書いていることからも分かるとおり、会社に限った規定ではありません。
この3つをすべて満たす医療法人は、条文上、否認規定の対象になります。
分院を複数開設し、それぞれの院長が以前そこで個人として開業しており、その院長が出資の3分の2以上を持っている。
この形に当てはまる医療法人は多くはないはずです。実際、公表されている裁決や裁判例を探しても、医療法人に第2号が適用された事例は見当たりませんでした。
それでも、自院が形式的に要件に当てはまるかどうかは、確認しておく価値があります。
一方、MS法人の側は、理事長やその親族が株式の過半を持っているのが通常です。
こちらは第1号の同族会社に当たります。MS法人側での否認は、条文上そのままあり得る話です。
「医療法人だから同族会社の否認は関係ない」と単純化するのも、「同族会社の否認がある」と一括りにするのも、どちらも正確ではありません。
自院がどの類型に当たるかは、分院の数や出資の状況によって変わります。
税務調査で見られる3つの証跡
では、実際に何を見られるのか。公表されている裁決から読み取れる判断材料を挙げます。
平成28年5月30日裁決(裁決事例集第103号)は、医業を営む個人が、妻が代表を務める同族会社から診療所の土地建物を賃借し、その賃料を必要経費に算入していた事案です。
原処分庁は、その会社が「高額な賃料を収受しており、これを容認すると請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となる」として、算定した適正賃料に基づいて所得を計算し直しました。
平成14年12月20日裁決(裁決事例集第64号207頁)は、歯科医院を営む請求人が同族会社に支払った医療機器等の賃借料が争われた事案です。
いずれも医療法人ではなく個人開業医の事案で、適用された条文も所得税法第157条です。
ただし、法人税法第132条と構造が同じ規定であり、何を見て判断しているかという枠組みは参考になります。そこから読み取れるのは次の3点です。
- 契約書があり、委託する業務の範囲が書かれているか。口頭の合意で、内訳を記した帳簿もない状態は、説明の出発点を欠きます
- 実際の業務量と対価が対応しているか。誰が、月に何時間、どの業務を行ったのか。作業記録や人員配置がここを支えます
- 外部の第三者に頼んだ場合の水準と比べて説明がつくか。近隣・同種の水準との比較は、実際に更正の根拠として使われています
一方で、時価を示す負担は課税庁の側にもあります。
先ほどの令和5年3月8日裁決では、原処分庁が「時価相当額」を計算するために用いた前提の数値が合理性を欠くとされ、更正処分の一部が取り消されました。
金額の妥当性は、一方的に決められるものではなく、双方が資料で示し合う世界です。だからこそ、こちら側の資料が効いてきます。
もう一点、正確にお伝えしておきます。
平成28年裁決で賦課されたのは過少申告加算税です。重加算税は、事実の仮装や隠蔽があった場合の税であり、委託料の水準をめぐる評価の相違とは前提が異なります。
「否認されたら重加算税」と身構える必要はありません。ただし、過少申告加算税と延滞税の負担は残ります。
ケーススタディ|委託料1,200万円の内訳を説明できるか
前回のモデルケースの続きです。実在の法人ではありません。
医療法人B会が、理事長Cの配偶者Dが全額出資する会社E(MS法人)に医療事務の代行を委託し、年間1,200万円(税抜)を支払っている。この1,200万円を、どう説明するか。
E社側の原価の積み上げ(1年・概算)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 常勤スタッフ2名の人件費(社会保険料含む) | 760万円 |
| レセプト関連システム・通信費 | 90万円 |
| 事務所家賃・水道光熱費の按分 | 100万円 |
| その他(消耗品・研修費等) | 50万円 |
| 原価計 | 1,000万円 |
| 委託料 | 1,200万円 |
| 差額(マージン) | 200万円 |
原価1,000万円に対して200万円、率にして20%のマージンです。これが説明できるかどうかが分かれ目になります。
受託者としてのリスク負担や、スタッフの採用・教育の機能を担っていることを、契約書と実際の記録で示せるのであれば、説明のつく水準といえます。
逆に、常勤2名のうち1名が実際にはB会の指示だけで動いており、E社は請求書を出しているだけであれば、その分の対価は説明が難しくなります。
仮に、説明のつかない部分として300万円が否認された場合
B会では300万円が損金にならず、法人税等の実効税率を30%とすれば約90万円の負担増です。
これに過少申告加算税と延滞税が加わります。金額そのものより痛いのは、翌年以降も同じ契約が続いている限り、同じ論点が毎年繰り返される点です。
もうひとつ、委託料を上げれば上げるほど、B会の消費税負担も増えます。
前回書いたとおり、保険診療が非課税売上であるため、委託料にかかった消費税は控除できない部分が生じます。
委託料を厚くすることが、そのまま手取りの改善につながるとは限りません。
※ 税率・金額は説明のための概算です。実際の負担は法人の規模・所得・地域により異なります。
よくある質問
Q1. 委託料は毎年見直すべきでしょうか。
業務の内容や量が変われば、対価も見直すのが自然です。
何年も同じ金額のまま業務範囲だけが増減している状態は、対応関係の説明が難しくなります。
年に一度、契約書と実際の業務を突き合わせる機会を持つことをおすすめします。
Q2. 過去の分をさかのぼって直すことはできますか。
実際に、当事者間で賃料を遡及して変更した例は裁決の中にも見られます。
ただし、遡及の変更があったからといって、それだけで過去の課税関係が解決するわけではありません。個別の事情によりますので、顧問税理士にご相談ください。
Q3. 契約書さえ作っておけば大丈夫ですか。
契約書は出発点であって、それだけでは足りません。見られるのは契約書と実態が一致しているかどうかです。作業記録や人員配置といった、実態を裏づける資料をあわせて残してください。
まとめ
- MS法人の委託料に「いくらまでなら安全」という金額の基準はありません。問われるのは業務の実態と対価の対応関係です
- 役務の対価に見合わない部分は、名義が委託料であっても寄附金として扱われ得ます(法人税法第37条第7項)。損金算入限度額を超える部分は損金になりません
- 「同族会社の否認」は、MS法人側には条文上そのまま及びます。医療法人本体も、分院の数と出資の状況しだいで条文上の対象になります(当てはまる法人は多くありません)
- 税務調査で見られるのは、契約書・業務量との対応・第三者価格との比較の3つです
- 委託料を低く抑えることにも別のリスクがあります。高すぎ・低すぎの両方を見てください
次のアクション
まず、現在の委託契約書を開いて、そこに書かれた業務範囲と、実際に行われている業務が一致しているかをご確認ください。
次に、委託料の根拠を示す資料(原価の内訳、業務量の記録)が手元にあるかを点検してください。
この2つが揃っていない場合は、金額を動かす前に資料を整えるところから始めるのが順序です。
判断に迷う点があれば、医業を専門とする税理士にご相談ください。
※ 本記事は制度の一般的な説明です。個別の状況により取扱いは異なります。具体的な判断は税理士にご相談ください。
この記事の監修
税理士法人昴 所長・税理士 山根和彦
医業に特化した税務・経営支援。医療法人の設立・節税・事業承継・相続対策を多数支援。