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2026.08.31
医療法人の経営情報等報告|決算届と何が違うかを実務で解説
「決算届は毎年出しているから、うちは大丈夫」。医療法人の理事長からこう伺うことがありますが、決算届(事業報告書等の届出)と経営情報等の報告は別の制度です。
厚生労働省も、事業報告書等を届け出た法人に対して「経営情報等も報告が必要です」と明示しています。
両者の違いと、実務でつまずきやすい点を整理します。
この記事でわかること
- 決算届(事業報告書等)と経営情報等報告は何が違うのか
- 誰が・いつまでに・何を報告するのか
- 集計作業でつまずきやすい3つのポイントと、着手すべき時期
医療法人の経営情報等報告は、決算届とは別の制度
厚生労働省が医療法人向けに公表しているリーフレットは、2つの制度を次のように区別しています。
事業報告書等
毎会計年度終了後3か月以内に届け出る、法人単位の活動状況等
経営情報等
毎会計年度終了後3か月以内(外部監査の対象となる医療法人は4か月以内)に報告する、病院・診療所単位での「収益及び費用」や「職員の職種別人数及びその給与総額(任意項目)」
違いは3点です。
| 項目 | 事業報告書等(決算届) | 経営情報等 |
|---|---|---|
| 単位 | 法人単位 | 病院・診療所単位 |
| 期限 | 会計年度終了後3か月以内 | 会計年度終了後3か月以内(外部監査対象法人は4か月以内) |
| 内容 | 事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、監事の監査報告書等 | 施設ごとの収益・費用の内訳、職員の職種別人数および給与総額(任意項目) |
同じ決算数値を扱いますが、切り口が「法人」か「施設」かという点が決定的に違います。
複数の診療所を運営している医療法人では、法人全体の損益計算書を施設ごとに分ける作業が新たに発生します。
1施設の法人であっても、報告様式が求める勘定科目の区分は、日常の会計処理の科目とそのまま一致するとは限りません。
厚生労働省のFAQでも、次のように整理されています。
事業報告書等を届け出ましたが、経営情報等も報告しなければいけないのでしょうか。/必要です。法人単位の事業報告書等に加えて、病院や診療所ごとの経営情報等も報告が義務化されています。
※ 本記事の制度内容は2026年8月時点のものです。様式および取扱いは改正されることがあります。
誰が・いつまでに・何を報告するのか
報告義務者
医療法人および地域医療連携推進法人です。病院を持たない診療所のみの医療法人も対象です。
期限
毎会計年度終了後3か月以内。
公認会計士または監査法人の監査を受けなければならない医療法人は4か月以内とされています。
なお、あわせて届け出る事業報告書等については、医療法第52条第1項が「医療法人は、厚生労働省令で定めるところにより、毎会計年度終了後三月以内に、次に掲げる書類を都道府県知事に届け出なければならない」と定めています。
事業報告書等の中身は同法第51条第1項に規定されており、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書のほか、「関係事業者(理事長の配偶者がその代表者であることその他の当該医療法人又はその役員と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者をいう。)との取引の状況に関する報告書」が含まれます。
MS法人との取引がある法人は、この報告書の作成も忘れないようご注意ください。
期限を過ぎた場合について、厚生労働省のFAQは「報告期限が過ぎていても都道府県へご報告ください」としています。
期限を過ぎたら不要になる制度ではありません。
報告事項
病院・診療所単位での「収益及び費用」、および「職員の職種別人数及びその給与総額」です。
ここで押さえておきたいのが、職種別人数および給与総額が「任意項目」とされている点です。
解説記事の中には義務項目のように書かれているものもありますが、厚生労働省のリーフレットは任意項目と明記しています。
ただし、任意だから出さなくてよい、と切り捨てるのは早計です。この報告データは診療報酬改定や補助金の検討に使われます。
提出する法人が少ないほど、医療機関の人件費の実態が改定の議論に届きにくくなります。
集計できる体制があるのであれば、提出しておくのが望ましい項目です。
とはいえ初年度から完璧を目指す必要はありません。
収益・費用の報告をもれなく行ったうえで、職種別給与は翌年度に向けて集計体制を整える、という段取りでも差し支えありません。
職種別の人件費は自院の経営分析にもそのまま使える数字ですから、報告のためだけの作業にはならないはずです。
報告方法
医療法人経営情報データベースシステム(MCDB)によるシステム報告が推進されています。
前年度に登録した情報の自動入力機能や、入力内容の自動チェック機能があり、2年目以降は負担が軽くなる設計です。
利用には事前の申請が必要です。
MCDBの操作説明書、CSV形式でのデータ連携ソフトウェア、よくある質問(FAQ)は、独立行政法人福祉医療機構(WAM NET)の「医療法人経営情報データベースシステム(MCDB)について(医療法人向け)」に掲載されています。
初めて報告する法人は、まずここで操作説明書とFAQに目を通しておくと、入力段階での手戻りが減ります。
報告データの使われ方
厚生労働省は、報告データを「医療の現状と実態を把握するための非常に重要な情報として、診療報酬改定や医療機関への補助金等の必要な施策の検討に活用しています」としています。
集めて終わりの制度ではなく、次の改定の根拠データになるという位置づけです。

集計でつまずきやすい3つのポイント
実際に提出まで進めると、様式そのものより準備段階で時間を取られます。よくある3点を挙げます。
1|単位の混在
様式によって、金額の単位が千円のものと円のものが混在します。
日常の試算表から数値を転記する際、単位を取り違えると総額が合わなくなり、原因の特定に時間がかかります。転記の前に、様式ごとの単位を一覧にしておくと事故が減ります。
2|勘定科目のマッピング
報告様式が求める費用の区分は、医療法人会計基準や日常の勘定科目と一対一で対応しないことがあります。
たとえば委託費、経費、設備関係費といった区分に、自法人のどの科目を割り当てるかを決めておく必要があります。
この割当てを毎年変えてしまうと、報告データの年度比較が意味を持たなくなります。
初年度に決めたマッピングを文書化し、翌年以降も同じ基準で集計することが実務上のポイントです。
3|職種別給与総額の集計期間
職種別の人数および給与総額を報告する場合、集計の対象期間が会計期間と一致しないことがあります。
給与計算システムから抽出する際、対象期間・対象者の範囲(常勤/非常勤、役員を含むか)を最初に決めておかないと、集計をやり直すことになります。
対象期間の取扱いは、厚生労働省が公表している手引き(「『医療法人に関する情報の調査及び分析等』の取扱い(第3版)」等)でご確認ください。
ケーススタディ:第1期の医療法人が報告を終えるまで
モデルケース:医療法人社団F会(診療所1施設・3月決算・第1期)
令和8年3月に第1期の決算を迎えた。決算届は税理士に依頼しているが、経営情報等報告は初めてで、何から手をつけるべきか分からない。
以下は作業の流れを示すための一般的な整理です。実際に必要な期間は法人の規模や体制によって変わります。
4月上旬|MCDBの利用申請
システム報告を行うにはIDの発行申請が必要です。
申請方法はWAM NETのMCDB案内ページに掲載されています。ID発行には日数を要するため、決算作業と並行して最初に着手します。
ここを後回しにすると、期限直前に「入力できない」という事態になります。
4月中〜下旬|決算の確定
経営情報等報告は決算数値をもとに作成するため、決算の確定が前提です。
決算が固まらないと着手できません。
5月上旬|勘定科目のマッピング表を作る
報告様式の費用区分と、自法人の勘定科目の対応表を作成します。第1期はここに最も時間がかかります。
判断に迷う科目は所管の都道府県に確認します。一度作れば翌年以降は流用できます。
5月中旬|数値の入力と自己チェック
様式ごとの単位(千円/円)を確認しながら入力します。MCDBの自動チェック機能を活用し、警告が出た箇所を潰していきます。
5月下旬|職種別給与の集計(任意項目を提出する場合)
給与計算データから職種別に集計します。
対象期間と対象者の範囲を確定してから抽出します。
6月上旬|提出
決算届(事業報告書等)と併せて提出します。期限は6月末(3月決算の場合)ですが、システムの不具合や確認事項の発生を見込んで、2週間程度の余裕を持たせます。
この流れが示すこと
決算確定から提出まで、実質1か月半程度の作業期間を見ておく必要があります。
第1期は勘定科目のマッピングに時間がかかるため、決算作業と同時並行で準備を始めることをおすすめします。
2年目以降は前年度データの自動入力が効くため、負担は目に見えて軽くなります。
なお、この報告で提出した施設別の収益・費用データは、自院の経営分析にもそのまま使えます。
年度ごとに同じ基準で集計されたデータが蓄積されれば、費用構造の変化を追跡する材料になります。
義務として処理するだけでなく、経営管理の資料として活用する視点を持つと、作業の意味が変わってきます。医療法人の資金の置き場所を考える際にも、この施設別データが出発点になります。
詳しくは「医療法人は不動産投資ができるか|賃貸が例外的に許される3条件」もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q1. 診療所1施設だけの小さな医療法人も報告が必要ですか。
A. 必要です。厚生労働省は原則としてすべての医療法人を対象としています。施設数にかかわらず、病院・診療所単位での収益および費用の報告が求められます。
Q2. 職種別の給与総額まで報告しなければなりませんか。
A. 厚生労働省のリーフレットでは、職員の職種別人数およびその給与総額は任意項目とされています。
ただし、報告データが診療報酬改定の検討に活用されることを踏まえると、集計できる体制があるのであれば提出しておくのが望ましい項目です。
初年度は収益・費用の報告をもれなく行い、職種別給与は翌年度に向けて体制を整えるという進め方でも差し支えありません。
Q3. 期限を過ぎてしまいました。どうすればよいですか。
A. 厚生労働省のFAQは、報告期限が過ぎていても都道府県へ報告するよう案内しています。
放置せず、所管の都道府県の医療法人担当課にご連絡ください。
まとめ
医療法人の経営情報等報告について、押さえるべき点を整理します。
- 決算届(事業報告書等)と経営情報等報告は別の制度。法人単位か施設単位かという切り口が違う
- 期限は毎会計年度終了後3か月以内(外部監査対象法人は4か月以内)。期限を過ぎても報告は必要
- 職種別人数および給与総額は任意項目。ただし改定の議論に自院の実態を届ける意味があり、集計できるなら提出しておくのが望ましい
- つまずきやすいのは単位の混在、勘定科目のマッピング、職種別給与の集計期間の3点
- 報告データは診療報酬改定や補助金の検討に使われる。自院の経営分析にも活用できる
次のアクション:まず自法人の決算月を確認し、報告期限を逆算してカレンダーに入れてください。MCDBのID発行申請がまだであれば、決算作業と並行して手続を始めてください。
第1期の法人は、勘定科目のマッピング表の作成に着手する時期を決算確定の前に設定しておくと間に合います。
作業分担については顧問税理士にご相談ください。
個別のご相談は 税理士法人昴へのお問い合わせ まで。
この記事の監修
税理士法人昴 所長・税理士 山根和彦
医業に特化した税務・経営支援。医療法人の設立・節税・事業承継・相続対策を多数支援。
参考文献・一次情報源
- 厚生労働省「医療法人に関する情報の調査及び分析等について」 — https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177753_00005.html
- 厚生労働省「事業報告書等と経営情報等の報告が義務付けられています」(医療法人向けリーフレット) — https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001659899.pdf
- e-Gov法令検索「医療法」(第51条・第52条) — https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
- 独立行政法人福祉医療機構(WAM NET)「医療法人経営情報データベースシステム(MCDB)について(医療法人向け)」 — https://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/mcdb/houjin/
※ 本記事の内容は2026年8月時点の情報に基づいています。個別の状況により異なりますので、詳しくは所管の都道府県および税理士にご相談ください。