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医療法人は不動産投資ができるか|賃貸が例外的に許される3条件


「法人にお金が貯まってきたので、マンションを買って家賃収入を得たい」。
医療法人の理事長から、この相談を受けることがあります。
株式会社であれば当然の選択肢ですが、医療法人の不動産投資は医療法上、原則として認められていません。
ただし例外もあります。どこに線が引かれているのかを、厚生労働省の一次資料で確認します。

この記事でわかること

  • 医療法人が不動産投資を原則できない根拠と、その理由
  • 遊休資産の賃貸が例外的に認められる3つの条件
  • 法人の余剰資金を「不動産」以外にどう向けるかの判断軸

医療法人の不動産投資はなぜ原則できないのか

医療法人が行える業務は、法律で3層に整理されています。
この構造を押さえると、不動産投資がどこにも入らない理由が見えてきます。

第1層:本来業務

医療法第39条第1項は「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる」と定めています。
これが本来業務です。

第2層:附帯業務

医療法第42条は、医療法人が「その開設する病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院……の業務に支障のない限り、定款又は寄附行為の定めるところにより、次に掲げる業務の全部又は一部を行うことができる」として、8つの業務を掲げています。

  1. 医療関係者の養成または再教育
  2. 医学または歯学に関する研究所の設置
  3. 第39条第1項に規定する診療所以外の診療所の開設
  4. 疾病予防運動施設の設置
  5. 疾病予防温泉利用施設の設置
  6. 保健衛生に関する業務(薬局、訪問看護、居宅サービス等)
  7. 社会福祉法に定める事業のうち厚生労働大臣が定めるものの実施
  8. 有料老人ホームの設置

不動産賃貸業はこの8号のどこにもありません。

第3層:収益業務

収益業務として不動産業を行えるのは、社会医療法人に限られます(医療法第42条の2)。
厚生労働省の同資料は、収益業務として認められる業種に「不動産業(『建物売買業、土地売買業』を除く。)」を挙げていますが、これは社会医療法人の話です。
社会医療法人は救急医療等確保事業の実施など厳しい要件を満たして都道府県知事の認定を受けた法人であり、一般的な医療法人社団はここに該当しません。

つまり、通常の医療法人にとって不動産投資は、本来業務でも附帯業務でも収益業務でもない業務ということになります。
医療法人運営管理指導要綱は、都道府県が立入検査で「定款又は寄附行為に記載されていない業務を行っていないこと」を確認し、行っている場合は「必要に応じてその業務の中止を指導」するとしています。

※ 本記事の制度内容は2026年8月時点のものです。医療法および関連通知は改正されることがあります。

例外①:遊休資産の賃貸が認められる3つの条件

一方で、医療法人が保有する土地・建物をまったく貸せないわけではありません。医療法人運営管理指導要綱(Ⅲ 管理 2 資産管理)は、使っていない土地・建物の扱いを次のように定めています。

まず原則として、長期的にみて医療法人の業務に使う可能性のない資産は、売却するなどして適正に管理・整理することとされています。
そのうえで、次の条件を満たす場合に限り、賃貸しても差し支えないとされています。

条件1|対象資産が限定されていること

長期的な観点から医療法人の業務に使用する可能性のある資産(例:病院等の建て替え用地)、または土地の区画もしくは建物の構造上、処分することが困難な資産であること。

条件2|事業として行われていないと判断される程度であること

賃貸による収入の状況や、貸付資産の管理の状況などを勘案して判断されます。
賃貸収入は損益計算書上、事業外収益として計上することとされています。

条件3|法人の信用と本来業務を損なわないこと

当該賃貸が医療法人の社会的信用を傷つけるおそれがなく、かつ病院等の業務の円滑な遂行を妨げるおそれがないこと。

ここで決定的に重要なのが、同要綱の備考欄にある次の一文です。

新たな資産の取得は医療法人の業務の用に使用することを目的としたものであり、遊休資産としてこれを賃貸することは認められないこと。

つまり「賃貸目的で新たに不動産を買う」ことは認められません。
認められているのは、あくまですでに持っている資産がたまたま遊んでいる場合の管理手段としての賃貸です。
冒頭の「法人でマンションを買って家賃収入を」という発想は、この一文で否定されることになります。

例外②:附随業務として認められる範囲

もうひとつの例外が「附随業務」です。開設する病院等の業務の一部として、またはこれに附随して行われるものは収益業務に含まれず、特段の定款変更も要しません。

厚生労働省の整理では、附随業務にあたるのは次の2類型です。

  • 病院等の施設内で、入院・通院する患者およびその家族を対象として行われる業務、または職員の福利厚生のために行われる業務であって、医療提供または療養の向上の一環として行われるもの
  • 病院等の施設外で、当該病院に通院する患者を対象として行われる業務であって、当該病院等で提供される医療または療養に連続して行われるもの

この整理から、実務でよく問題になる境界が導かれます。

内容 附随業務にあたるか
病院等の建物内で行う売店 あたる
敷地内で行う駐車場業 あたる
敷地外に有する法人所有の遊休資産を用いて行う駐車場業 あたらない
当該病院等への/からの患者の無償搬送 あたる
当該病院等以外の病院から、同じく当該病院等以外の病院への患者の無償搬送 あたらない

同じ「駐車場」でも、敷地内か敷地外かで扱いが分かれます。
院外に持っている土地をコインパーキングにして収益を上げる、という運用は附随業務の枠に入らないということです。

ケーススタディ:余剰資金5,000万円の使い道を比較する

モデルケース:医療法人社団A会(内科クリニック1施設・理事長は50代)

設立から10年。毎期の利益が積み上がり、決算書上の現預金が5,000万円まで増えてきた。
理事長は「銀行に置いておいても増えないので、法人で収益物件を買いたい」と考えている。

以下は理解のための単純化した試算です。実際の税負担は所得水準や適用制度によって変わります。

案①:医療法人で収益用不動産を取得する

賃貸目的での新規取得は、前述のとおり認められません。定款に記載のない業務として、都道府県の立入検査で中止を指導される可能性があります。
指導で済まない場合、医療法第64条第1項により期限を定めて必要な措置をとるべき旨を命じられ、命令に従わないときは同条第2項で業務の全部もしくは一部の停止命令や役員の解任勧告に進むことがあります。
選択肢になりません。

案②:理事長個人が取得する

法人の資金を個人に移すには、役員報酬や役員退職給与といった形をとる必要があります。
仮に役員報酬を年間1,000万円増額した場合、法人側では損金算入により法人税等の負担が減る一方、個人側では所得税・住民税と社会保険料の負担が生じます。
理事長の課税所得水準によっては、個人の手取りは増額分の半分程度にとどまることもあります。
5,000万円を数年かけて個人へ移し、その手取りで物件を買う、という道筋になります。

なお、役員報酬を損金算入するには定期同額給与や事前確定届出給与などの要件があり、期の途中で自由に増額できるわけではありません。

案③:MS法人(別会社)を設立して取得する

理事長やその親族が株主の株式会社であれば不動産投資に制限はありません。
ただし医療法人とMS法人の間に取引があると、医療法第51条第1項により「関係事業者との取引の状況に関する報告書」を事業報告書等の一部として作成し、同法第52条第1項により毎会計年度終了後3月以内に都道府県知事へ届け出る必要が生じます。
取引条件が不合理であれば、税務上も寄附金や役員給与として否認されるリスクがあります。
「別会社を挟めば自由」ではありません。

案④:法人の中で使う

医療機器の更新、電子カルテの入替え、借入金の繰上返済、理事長の退職金原資の準備(生命保険等)といった使い道であれば、医療法上の論点はほぼ生じません。

とくに退職金原資の準備は、出資持分のある医療法人(持分あり法人)の場合、退職金の支給によって純資産が減り、将来の持分評価を引き下げる効果もあるため、承継対策と一体で考えられます。
持分なし法人にはこの持分評価の論点はありませんが、理事長の退任時に法人が支払える体力を確保しておく意味は変わりません。
自院がどちらの類型かによって、この使い道の意味づけが変わる点にご注意ください。

このケースで最初に検討すべきは案④です。
「不動産で運用する」という発想の前に、法人の中で使いきる余地がないかを洗い出すほうが、結果としてキャッシュフローの安定に寄与することが多いためです。

よくある質問

Q1. 医療法人が持っている土地を、隣の店舗に貸すのは違法ですか。

A. ただちに違法とは限りません。
医療法人運営管理指導要綱は、業務に使用する可能性のある資産や構造上処分が困難な資産について、事業として行われていないと判断される程度であれば賃貸しても差し支えないとしています。
ただし賃貸規模が大きくなると「事業」と判断される可能性があるため、所管の都道府県の医療法人担当課に事前に相談されることをおすすめします。

Q2. 定款に「不動産賃貸業」を追加すれば可能になりますか。

A. 定款変更には都道府県知事の認可が必要であり、社会医療法人以外の医療法人について収益業務としての不動産業が認可される制度にはなっていません。
定款に書けば何でもできるようになるわけではない、という点にご注意ください。

Q3. 社会医療法人になれば不動産投資ができるのですか。

A. 制度上は収益業務として不動産業(建物売買業・土地売買業を除く)を行えます。
ただし社会医療法人の認定には救急医療等確保事業の実施をはじめ多くの要件があり、認定後は役員・社員の親族割合の制限なども受けます。
不動産投資を目的に社会医療法人を目指すという順序は、現実的ではありません。

まとめ

医療法人の不動産投資について、押さえるべき点を整理します。

  • 医療法人の業務は本来業務・附帯業務・収益業務の3層で構成され、不動産賃貸業はいずれにも含まれない(収益業務としての不動産業は社会医療法人限定)
  • 例外として遊休資産の賃貸は認められるが、「賃貸目的で新たに資産を取得すること」は明確に否定されている
  • 附随業務として認められるのは施設内売店や敷地内駐車場までで、敷地外の遊休資産を使った駐車場業は含まれない
  • 別会社を挟む方法にも、関係事業者との取引報告義務と税務上の否認リスクがある
  • 余剰資金は、まず法人内での設備投資・借入返済・退職金原資の準備といった使い道を検討する順序が現実的

次のアクション:まず自院の定款(寄附行為)を開き、「目的」および「業務」の条項に何が書かれているかをご確認ください。
そのうえで、法人に滞留している資金の額と、今後5年間の設備投資・借入返済の予定を並べてみてください。
そこに余剰が残る場合に初めて、承継や退職金と絡めた資金の置き場所を検討する段階になります。
個別の判断は、医療法と税務の両面を見られる税理士にご相談ください。

個別のご相談は 税理士法人昴へのお問い合わせ まで。


この記事の監修

税理士法人昴 所長・税理士 山根和彦

医業に特化した税務・経営支援。医療法人の設立・節税・事業承継・相続対策を多数支援。

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参考文献・一次情報源

※ 本記事の内容は2026年8月時点の法令・通知に基づいています。個別の状況により異なりますので、詳しくは税理士にご相談ください。