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2026.08.03
持分なし医療法人への移行|税制優遇のメリットと6年間の注意点
【認定医療法人・持分なし移行 承継シリーズ(全3回)】
第1回:制度と期限|なぜ今から準備すべきか
第2回(本記事):移行のメリットとデメリット
第3回:移行手続きの進め方と費用
この記事でわかること
- 持分なし医療法人への移行で受けられる3つの税制メリット(納税猶予・免除・非課税)の中身と根拠
- 移行後に残る3つのデメリット・リスク(6年間の運営要件・遡及課税・不可逆性)
- メリットとリスクを天秤にかけて判断するための、医業ならでの視点
持分なし医療法人へ移行する3つの税制メリット
認定医療法人の認定を受けて移行を進めると、出資持分にかかる税負担について、大きく3つの優遇があります。
いずれも租税特別措置法に根拠がある正式な制度です。
①他の出資者へのみなし贈与税の猶予・免除
出資者が複数いる医療法人で、ある出資者が持分を放棄すると、残った出資者の持分価値が増えます。
この場合、相続税法9条により、残った出資者が「利益を受けた」として贈与税が課されるのが原則です。
認定医療法人では、この贈与税が租税特別措置法70条の7の9により移行期限まで納税猶予され、期限までにその出資者も持分を全部放棄すれば、猶予されていた税額は免除されます(同条第11項)。
②相続で持分を取得した相続人への相続税の猶予・免除
理事長が持分を持ったまま亡くなり、後継者が相続でその持分を取得した場合、本来はその出資持分に相続税がかかります。
認定医療法人であれば、この相続税は租税特別措置法70条の7の12により移行期限まで納税猶予され、期限までに持分を放棄すれば免除されます。
③法人自身へのみなし贈与税の非課税
出資者全員が持分を放棄すると、経済的利益を受けた医療法人自身に対して、相続税法66条4項により贈与税が課されるのが原則です。
認定医療法人では、この規定が租税特別措置法70条の7の14第1項により「適用しない」とされ、法人への贈与税は課されません。
※ 各制度の適用には要件・手続きがあり、税額の計算方法は政令・省令に委ねられています。数値・税率は2026年7月時点の情報です。最新の告示・厚生労働省の案内をご確認ください。
見落とせない3つのデメリット・リスク
税制メリットは大きい一方で、移行後には無視できない義務とリスクが残ります。
ここを理解せずに進めると、想定外の負担が生じかねません。
移行後6年間の運営要件(モニタリング)
移行して終わりではありません。移行後も、法令で定められた運営要件を6年間満たし続ける必要があります。
要件には、役員報酬が不当に高額でないこと、親族などの割合、事業内容などの条件が含まれます。
この期間は、厚生労働大臣による確認(モニタリング)の対象になります。
認定取消し時の遡及課税
移行後6年を経過する日までに認定が取り消されると、非課税とされていた法人へのみなし贈与税が遡って課されます(租税特別措置法70条の7の14第2項)。
猶予されていた個人の相続税・贈与税についても、要件を満たさなくなれば納付が必要になります。
「移行が完了すれば終わり」ではなく、その後6年間の運営まで見据える必要があります。
持分を「放棄する」という不可逆の意思決定
移行は、出資持分という財産的権利を手放す選択です。いったん放棄すれば、将来的に持分の払戻しを受ける道はなくなります。
手元資金として持分を活用する可能性や、他の相続人との財産バランスも含めて、家族の資産設計全体のなかで「本当にこの選択が最善か」を検討する必要があります。
持分の評価を退職金などで引き下げてから承継する方法との比較は、「医療法人の出資持分は退職金でいくら下がる?」(公開後に内部リンク)もあわせてご覧ください。

モデルケース|メリットとリスクを天秤にかける
モデルケース:A医院・理事長Aさん(65歳)と後継者の長男Bさん(医師・38歳)
※ 以下は制度の理解を助けるためのモデルケースであり、実在の法人・数値ではありません。実際の評価額・税額は個別の状況により大きく異なります。
Aさんの医療法人(持分あり)の出資持分は、現在約1.8億円と試算されています。出資者はAさん一人、後継者は長男のBさんです。
- 移行を選ぶ場合:認定を受けて移行を進めれば、Bさんが相続で取得する持分の相続税は猶予・免除の対象となり、約1.8億円分の相続税リスクを解消できる可能性があります。その代わり、移行後6年間は運営要件を満たし続ける義務を負い、持分は不可逆的に手放すことになります。
- 移行しない場合:持分は手元に残りますが、相続時には約1.8億円が課税価格に上乗せされ、納税資金の確保が課題になります。
どちらが有利かは、法人の内部留保の水準、後継者の有無、他の相続財産とのバランス、そして「本業に集中しながら6年間の要件を維持できるか」によって変わります。
数字の大きさだけでなく、経営の実態と家族の状況を合わせて判断することが欠かせません。
医業ならではの判断ポイント
移行の判断は「税金が安くなるか」だけでは決められません。
医療法人だからこそ押さえておきたい視点が3つあります。
第一に、後継者が医師として法人を継げる状態にあるか。理事長要件を満たせるかは、移行の前提になります。
第二に、分院展開や大きな設備投資を予定している場合、移行後6年間の運営要件を各拠点で維持できるか。
第三に、そもそも移行の手続きや要件維持が、本業である診療やクリニック経営を圧迫しないか。
節税が目的化して本業がおろそかになっては本末転倒です。
これらは税務と経営・医療の両面にまたがるため、医業に詳しい専門家と一緒に検討することをおすすめします。
よくある質問
Q1. 出資者が一人だけの医療法人でも、メリットはありますか?
A. はい。出資者が一人の場合、その方が持分を放棄すると法人自身にみなし贈与税が課される場面が中心になりますが、認定医療法人であれば租税特別措置法70条の7の14第1項によりこの贈与税は課されません。
相続で持分を取得した相続人の相続税の猶予・免除も同様に適用の余地があります。
Q2. 移行後6年以内に認定が取り消されると、どうなりますか?
A. 非課税とされていた法人へのみなし贈与税が遡って課され、猶予されていた個人の税額も納付が必要になる場合があります。
だからこそ、移行を決める前に、6年間の運営要件を無理なく満たし続けられるかを見極めることが大切です。
Q3. メリットとデメリット、結局どちらを重視して判断すべきですか?
A. 一概には言えません。
出資持分の評価額が高く相続税リスクが大きい法人ほどメリットは大きくなりますが、要件維持の負担や不可逆性というリスクは法人の実態によって重さが変わります。個別の状況を踏まえた比較検討が必要です。
まとめ
- 持分なし医療法人への移行には、①他の出資者へのみなし贈与税の猶予・免除、②相続人の相続税の猶予・免除、③法人へのみなし贈与税の非課税という3つの税制メリットがある
- 一方で、移行後6年間の運営要件、認定取消し時の遡及課税、持分放棄の不可逆性というデメリット・リスクもセットで理解する必要がある
- メリットとリスクの重さは法人の実態(評価額・後継者・経営計画)によって変わるため、数字だけでなく経営の視点を含めた判断が欠かせない
次のアクション:自法人の出資持分の評価額を把握したうえで、移行によって解消できる相続税リスクと、移行後6年間の要件維持の負担を並べて比較してみてください。
判断に迷う場合は、医業に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
次回・第3回では、実際の移行手続きの進め方と費用感を解説します。
個別のご相談は 税理士法人昂へのお問い合わせ まで。
この記事の監修
税理士法人昂 所長・税理士 山根和彦
医業に特化した税務・経営支援。医療法人の設立・節税・事業承継・相続対策を多数支援。
参考文献・一次情報源
- 租税特別措置法(e-Gov法令検索)— https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 相続税法(e-Gov法令検索)— https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 国税庁 措法通遰70の7の9関係— https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/sochiho/080708/70_7/05_1.htm
※ 本記事の内容は2026年7月時点の法令・通達に基づいています。個別の状況により取扱いが異なります。詳しくは税理士にご相談ください。