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外来医師過多区域の新規開業規制|2026年4月施行の実務対応


医師偏在の是正を目的とした医療法等の改正により、外来医師過多区域での新規開業には新しい手続が加わりました。開業6か月前の届出、要請に従わない場合の勧告・公表、そして保険医療機関の指定期間の短縮です。国が示した候補区域は9つの二次医療圏。該当地域で開業を検討している医師にとっては、物件探しの前に確認しておくべき論点になります。

この記事でわかること

  • 外来医師過多区域の新規開業で何が求められるようになったか
  • 自分の開業予定地が候補区域にあたるかの確認方法
  • 指定期間の短縮が開業資金の返済計画に与える影響

外来医師過多区域の新規開業で何が変わったのか

根拠となるのは「医療法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第87号。令和7年12月12日公布)です。改正の柱は3つあり、そのうち「医師偏在是正に向けた総合的な対策」の中に、今回のテーマが含まれています。

厚生労働省が社会保障審議会医療部会に示した資料では、改正の概要が次のように整理されています。

外来医師過多区域の無床診療所への対応を強化(新規開設の事前届出、要請勧告公表、保険医療機関の指定期間の短縮等)する。

厚生労働省の公表資料によれば、具体的な仕組みは次のとおりです。

1|開業6か月前の届出

改正後の医療法第30条の18の6は、外来医師過多区域において診療所を開設しようとする者に対し、「当該診療所を開設する日の六月前までに、厚生労働省令で定めるところにより、当該区域における地域外来医療の提供に関する意向その他の厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出なければならない」と定めています。届出の期限が法律に明記されている点が重要です。

2|協議の場への参加と要請

届出を受けた都道府県は、協議の場への参加を求めるとともに、地域で不足する医療や、医師不足地域での医療の提供を要請することができます。

3|勧告・公表

要請に従わない医療機関に対しては、医療審議会で理由等の説明を求めたうえで、勧告および公表を行うことができます。

4|保険医療機関の指定期間の短縮

勧告等に至った場合、保険医療機関の指定期間が6年から3年に短縮されます。

開業そのものを禁止する制度ではありません。届出と協議を通じて、地域で不足している医療機能を担ってもらうよう促す仕組みであり、応じない場合に不利益が生じる、という設計です。

なお、この医療法第30条の18の6に基づく取扱いについては、令和8年3月19日付けの厚生労働省医政局長通知(医政発0319第20号)で趣旨および主な内容が示されており、同条は2026年8月時点の医療法に規定されています。

施行日は令和8年(2026年)4月1日です。 改正法全体の施行期日は原則として令和9年4月1日ですが、外来医師過多区域に関する規定はその例外として前倒しされています。厚生労働省の資料でも、医療法第30条の18の5および第30条の18の6の条文に「令和8年4月1日施行」と付記されています。

※ 本記事の制度内容は2026年8月時点のものです。施行期日は改正項目ごとに異なるため、ここで扱う項目以外の適用時期については、所管の都道府県および地方厚生局にご確認ください。

自分の開業予定地は候補区域にあたるか

厚生労働省医政局地域医療計画課は、令和8年3月27日付けの事務連絡「外来医師過多区域に係る候補区域の公表について」で、国が提示する候補区域を公表しました。

候補区域の基準は次の2つを同時に満たす二次医療圏です。

  • 外来医師偏在指標について、「全国平均値+標準偏差の1.5倍」以上
  • 可住地面積あたりの診療所数が上位10%以上

この基準に該当する9か所の二次医療圏が、候補区域として示されています。

都道府県 二次医療圏 該当市区町村
東京都 区中央部 千代田区、中央区、港区、文京区、台東区
東京都 区西部 新宿区、中野区、杉並区
東京都 区西南部 目黒区、世田谷区、渋谷区
東京都 区南部 品川区、大田区
東京都 区西北部 豊島区、北区、板橋区、練馬区
京都府 京都・乙訓 京都市、向日市、長岡京市、大山崎町
大阪府 大阪市 大阪市
福岡県 福岡・糸島 福岡市、糸島市
兵庫県 神戸 神戸市

ここで大切なのは、候補区域=指定区域ではないという点です。同事務連絡は、外来医師過多区域について「厚生労働省令で定める基準によって候補となる二次医療圏のうち、都道府県において、外来医師が特に多い地域を指定するもの」と説明しています。さらに、候補となる二次医療圏の中に、人口あたり医師数や可住地面積あたり診療所数等が特に高い市区町村や地区がある場合には、当該市区町村や地区を指定することも考えられるとしています。

つまり、実際にどこが外来医師過多区域になるかは、各都道府県の指定によって決まります。候補区域に含まれていても指定されない可能性があり、逆に区域内の一部地区だけが指定される可能性もあります。

熊本県および福岡県筑紫野市周辺は、今回公表された候補区域には含まれていません(福岡県では福岡・糸島医療圏のみが候補)。ただし、外来医師偏在指標は今後の見直し対象とされているため、将来にわたって対象外であることを意味するわけではありません。

 

管理者要件と指定期間の短縮が資金計画に効いてくる

制度の中で、開業計画に直接影響するのが次の2点です。

保険医療機関の管理者要件

厚生労働省の対策パッケージでは、保険医療機関に管理者を設け、2年の臨床研修および保険医療機関(病院に限る)において3年等、保険診療に従事したことを要件とし、責務を課すとされています。

この規定も、外来医師過多区域と同じ令和8年(2026年)4月1日施行です。 改正法の施行期日を示した厚生労働省の資料では、外来医師過多区域への対応(改正概要2②)と保険医療機関の管理者要件(同2③)が、いずれも令和8年4月1日の区分に置かれています。勤務医から開業へ移る医師にとっては、届出の手続より先に、この管理者要件を満たしているかの確認が入口になります。

もう一つ、医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件(地域医療支援病院等が対象)も見直されます。対象医療機関に公的医療機関および国立病院機構・地域医療機能推進機構・労働者健康安全機構の病院を追加し、勤務経験期間を6か月以上から1年以上に延長する内容です。勤務期間1年への延長は令和8年10月以降に認定医師の申請をする者から適用され、改正前に認定医師となった方は改正後の認定医師とみなして管理者となることができるとされています。施行に当たっては柔軟な対応を実施するとされ、医師少数区域等に所在する対象医療機関の管理者となる場合は対象から除外されます。

いずれも要件の細目は厚生労働省令に委ねられている部分があります。ご自身の研修歴・勤務歴が要件を満たすかは、開業を具体的に検討する段階で所管の地方厚生局および都道府県にご確認ください。

指定期間6年から3年への短縮

保険医療機関の指定期間は原則6年で、期間満了時に更新の手続をとります。これが3年に短縮されると、更新の頻度が上がるだけでなく、事業計画上の見通しの立てにくさにつながります。

開業資金は多くの場合、10年から15年の借入で調達します。金融機関が事業計画を審査する際、保険医療機関としての指定が事業の前提であることは言うまでもありません。指定期間が短いことが融資判断にどう影響するかは、金融機関の方針によって差が出る可能性があります。

ケーススタディ:開業予定地を2案で比較する

モデルケース:Eさん(40代・内科・勤務医)

開業を予定しており、候補地を2つに絞っている。A案は候補区域に含まれる都市部の駅前、B案は同一県内だが候補区域外の郊外。

以下は影響を整理するための単純化した比較です。実際の取扱いは都道府県の指定状況によって変わります。

A案:候補区域内での開業

  • 開業予定日の6か月前までに、提供予定の医療機能等の届出が必要になる可能性がある
  • 協議の場への参加、地域で不足する医療の提供の要請を受ける可能性がある
  • 要請に応じない場合、勧告・公表、保険医療機関の指定期間の3年への短縮という帰結があり得る
  • 準備スケジュールを従来より前倒しする必要がある。物件の仮契約や資金調達の相談を、届出の6か月前よりさらに早く始めることになる

想定される追加コストは、直接の金銭負担よりも時間です。届出から協議までに要する期間を見込むと、開業日が3〜6か月後ろにずれる可能性があります。テナントの賃料が家賃発生ベースで月40万円だとすれば、3か月の遅れは120万円の負担増にあたります。開業前の運転資金にこの余裕を織り込んでおく必要があります。

B案:候補区域外での開業

  • 現時点では新制度の届出対象になりません
  • 従来どおりの開設届(開設後10日以内)と保険医療機関の指定申請で進められます

判断の考え方

制度だけを見ればB案が有利に見えます。しかし、外来医師過多区域とされる地域は、そもそも患者数が多く交通の便がよいから医師が集まっている地域でもあります。制度上の手続負担と、立地の集患力とを天秤にかける、というのが実際の判断です。

留意しておきたいのは、要請の内容が必ずしも受け入れがたいものとは限らないという点です。地域で不足する医療機能(在宅医療、初期救急、産業医活動など)の提供を求められた場合、それが自院の診療方針と合致するなら、むしろ地域での立ち位置を確立する機会にもなります。届出を「規制」とだけ捉えず、地域の医療需要を知る場として使う姿勢が現実的です。

開業後の集患設計については「クリニック開業の集患は何が効く? ホームページ・SNS・看板・内覧会の優先順位」もあわせてご覧ください。

よくある質問

Q1. 候補区域で開業すると、開業を止められるのですか。

A. 開業を禁止する制度ではありません。届出と協議を通じて地域で不足する医療機能の提供を要請する仕組みであり、要請に従わない場合に勧告・公表や保険医療機関の指定期間の短縮という措置がとられます。開業そのものは可能です。

Q2. すでに開業している診療所も対象になりますか。

A. 制度の対象は新規開設です。ただし改正法案に対する衆議院厚生労働委員会の附帯決議では、外来医師過多区域における新規開設者のみならず既存の無床診療所についても、届出事項に準ずる事項に関する実態を把握するための環境整備を検討することとされています。今後の動向は注視が必要です。

Q3. 分院を出す場合も届出が必要ですか。

A. 新規開設にあたるかどうかは、開設する診療所の所在地と形態によります。分院であっても新たに診療所を開設する以上、対象となる可能性があります。具体的な取扱いは、開設予定地を所管する都道府県にご確認ください。

まとめ

外来医師過多区域の新規開業について、押さえるべき点を整理します。

  • 医療法等の一部を改正する法律(令和7年法律第87号)により、外来医師過多区域の無床診療所の新規開設には、開業6か月前の届出、協議、要請という手続が加わった。施行日は令和8年(2026年)4月1日で、保険医療機関の管理者要件も同日施行
  • 要請に従わない場合、勧告・公表と、保険医療機関の指定期間の6年から3年への短縮という措置がある
  • 国が公表した候補区域は9つの二次医療圏。ただし候補区域=指定区域ではなく、実際の指定は都道府県が行う
  • 熊本県は今回の候補区域に含まれていないが、外来医師偏在指標は見直し対象とされている
  • 開業計画への実質的な影響は金銭よりも時間。届出から協議に要する期間を運転資金に織り込む必要がある

次のアクション:開業予定地が決まっている方は、まず所在する二次医療圏が上記の候補区域に含まれるかをご確認ください。含まれる場合は、都道府県が実際に外来医師過多区域として指定しているかを、所管の医療政策担当課に問い合わせてください。そのうえで、開業予定日から逆算して届出のタイミングを事業計画に落とし込み、開業が後ろにずれた場合の運転資金の余裕を確保してください。資金計画の組み方は税理士にご相談ください。

個別のご相談は 税理士法人昴へのお問い合わせ まで。


この記事の監修

税理士法人昴 所長・税理士 山根和彦

医業に特化した税務・経営支援。医療法人の設立・節税・事業承継・相続対策を多数支援。

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