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医師が知るべき相続時精算課税の改正点|令和6年・8年度版


医師が知るべき相続時精算課税の改正点|令和6年・8年度版

相続時精算課税制度は、令和6年度改正(2024年1月1日施行)で大きく見直されました。

年110万円の基礎控除が新設されたことで使いやすくなった一方、「持ち戻し」の本質的な仕組みは変わっていません。

令和6年改正と令和8年度改正の違いを正確に理解したうえで、ご自身の資産設計に活かすかどうかをご判断ください。


相続時精算課税制度とは(基本の確認)

制度の概要と対象者

相続時精算課税制度とは、一定要件を満たす贈与について、累計2,500万円まで贈与税を非課税(課税の繰り延べ)とし、贈与者が亡くなったときに贈与財産を相続財産に加算して相続税を精算する制度です(2026年4月現在)。

利用できる当事者の要件(いずれも贈与日時点)

区分 要件
贈与者 60歳以上の父母または祖父母
受贈者 18歳以上の子または孫(推定相続人および孫)

制度を選択する際は、税務署に「相続時精算課税選択届出書」を提出します。

提出後は暦年課税に戻ることができません(不可逆)

これは制度の性格上、最も重要な注意点のひとつです。

暦年課税との根本的な違い

贈与税の課税方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があります。

日常的に使われる年110万円の非課税枠は暦年課税のものです。

両者の根本的な違いは「生前に渡した財産が将来の相続税計算に含まれるかどうか」にあります。

項目 暦年課税 相続時精算課税
年間非課税枠 年110万円 年110万円(基礎控除)+累計2,500万円(特別控除)
相続財産への加算 相続前7年分を加算(※) 贈与財産の全額を加算(基礎控除分を除く)
制度の変更 毎年自由に選択可 一度選択したら取消不可
税率(超過分) 累進税率(10〜55%) 一律20%

(※)令和6年度改正後。2024年1月1日以後の贈与から順次7年に延長。それ以前の贈与は従来どおり3年。

暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利かは、贈与者の余命・相続財産の規模・受贈者の数によって大きく異なります。

単純に「どちらが得か」と比べることはできないため、個別のシミュレーションが欠かせません。


令和6年度改正(2024年1月〜)で変わったこと

年110万円基礎控除の新設

令和6年度改正の最大のポイントは、相続時精算課税に年110万円の基礎控除が新設されたことです。

改正前は基礎控除がゼロだったため、1円以上の贈与を受けた場合でも申告が必要でした。

改正後のルールは以下のとおりです。

  • 年110万円以内の贈与は贈与税申告が不要
  • 年110万円以内の贈与分は相続財産への加算も不要(持ち戻し対象外)
  • 年110万円を超えた部分は、2,500万円の特別控除の範囲内であれば贈与税ゼロ(相続時に精算)

暦年課税との比較例(年110万円の贈与を10年間続けた場合)

暦年課税の場合、死亡前7年以内の贈与分は相続財産に加算されます。

仮に死亡の8年前から110万円ずつ贈与していたとすると、最後の7年分(770万円)が相続財産に戻り入ります。

相続時精算課税の場合(令和6年改正後)、年110万円の基礎控除範囲内の贈与は加算不要のため、10年間で1,100万円をすべて相続財産の外に出せます。

ただし、この試算はあくまで一例です。

実際には贈与財産の種類・評価額の変動・相続税率など多くの要素が絡むため、どちらが有利かは個別試算が必要です。

生前贈与加算期間の変更(暦年課税と比較)

令和6年度改正では、暦年課税における生前贈与加算期間が3年から7年に延長されました(2024年1月1日以後の贈与から段階的に適用)。

一方、相続時精算課税については、加算期間の変更はありません

贈与財産の全額(年110万円の基礎控除分を除く)を相続財産に加算するという原則は、改正前後で変わっていません。


令和8年度改正で相続時精算課税は変わるのか

直接的な変更はほぼなし(重要な事実)

令和6年改正と令和8年度改正を混同されているケースが散見されますが、相続時精算課税制度そのものに対する令和8年度改正での直接的な変更はほぼありません

  • 年110万円の基礎控除:変更なし
  • 2,500万円の特別控除:変更なし
  • 相続財産への全額加算原則:変更なし
  • 一度選択したら取消不可の規定:変更なし

周辺制度(貸付不動産評価・事業承継計画)への影響

貸付用不動産の相続税評価見直し(令和8年度税制改正)

令和8年度税制改正法は2026年3月31日に成立・4月1日に施行済みです。このうち貸付用不動産の評価見直しに関する規定は、2027年(令和9年)1月1日以降に発生する相続・贈与から適用されます。

改正の骨子は「5年ルール」の導入です。被相続人(または贈与者)が課税時期の5年以内に売買・新築等(対価を伴う取引)で取得した一定の貸付用不動産については、従来の路線価ベース評価に代わり、原則として通常の取引価額(市場価格水準)で評価されることになります。

ただし、課税上の弊害がないと認められる場合に限り、取得価額を基に地価変動等を考慮した価額の80%相当額を用いる簡便法が認められる見込みです。これは「路線価ベースの従来評価が例外的に残る」ものではなく、取得価額(≒市場価格)を出発点とした新たな計算方法である点に注意が必要です。

また、改正通達の施行日時点で5年以上前から所有している土地に、同日までに新築した建物(建築中を含む)は適用対象外とする経過措置が設けられています。

相続時精算課税との関係については、以下の2点を押さえておくことが重要です。

① 今回の5年ルールは「被相続人等が対価を伴う取引で取得した不動産」を対象としています。そのため、贈与等(対価なし)で取得した不動産はそもそもこのルールの対象外となる可能性が高いとされています(詳細は今後公表される評価通達を要確認)。

② 令和8年(2026年)12月31日までに贈与を完了すれば、現行の路線価ベース評価が適用されます。ただし、相続時精算課税では贈与時点の評価額が将来の相続税計算に持ち越されるため、贈与後に不動産価値が下落した場合は必ずしも有利になるとは限りません。

教育資金一括贈与の非課税措置の終了:令和8年3月末で終了。単純な代替にはなりません。

医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置:医療法人の出資持分の承継には、一定の要件を満たす認定医療法人を対象とした納税猶予の特例措置が設けられています(2026年4月現在)。相続時精算課税との選択・組み合わせは、法人の認定状況・後継者の状況・相続税の規模を踏まえた総合判断が必要です。


医師・医療法人オーナーが特に注意すべきポイント

「持ち戻し」の誤解:相続時精算課税を「2,500万円まで贈与税がかからない制度」と理解されている院長が少なくありません。しかし、課税されないのではなく、相続時まで課税が繰り延べられるのが正確な理解です。相続財産が基礎控除を超える院長にとって、最終的な税負担は変わらない、もしくは増える可能性があります。

医療法人の出資持分評価が高い場合の活用とリスク

  • 先代院長の相続が近く、出資持分の評価額が高く暦年課税では承継に長期間を要する場合に有効な選択肢となりえます
  • ただし、一度選択すると暦年課税に戻れない制約が生じます
  • 小規模宅地等の特例は、相続時精算課税で贈与した財産には適用されません。診療所の土地など相続時に特例適用を見込んでいる場合は、贈与の対象外とするか慎重に検討する必要があります

長期視点での検討:相続時精算課税の選択は、余命の推計・将来の財産規模・相続人の構成・二次相続への影響を踏まえた長期的な判断が必要です。10年・20年後を見据えたシミュレーションによって初めて有利不利が明らかになります。


まとめ

相続時精算課税 令和6年改正・令和8年度改正の要点

  • 令和6年度改正(2024年1月1日〜)で年110万円の基礎控除が新設。この範囲内の贈与は申告不要・相続財産への加算も不要
  • ただし、「持ち戻し」の原則は変わっていない。年110万円を超えた贈与分は相続財産に加算される
  • 令和8年度改正では相続時精算課税そのものへの直接変更はほぼない。令和6年改正との混同に注意
  • 暦年課税との有利不利は、贈与者の年齢・相続財産の規模・贈与期間などによって変わる
  • 医療法人オーナーは、出資持分の評価・小規模宅地特例との兼ね合い・不可逆性を特に慎重に検討する必要がある

次のアクション(ご確認いただきたいこと)

  1. 現在の相続財産の概算(出資持分・不動産・金融資産)を把握しているか
  2. 相続時精算課税を既に選択している場合、選択した贈与者・受贈者の組み合わせを確認する
  3. 診療所の土地等で小規模宅地等の特例適用を見込んでいる場合、その財産を贈与対象から外せているか
  4. 医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の利用可能性を顧問税理士と確認する

個別の相続シミュレーションは、財産の種類・評価方法・家族構成によって結果が大きく異なります。制度の概要を把握したうえで、必ず担当の税理士と個別の数値を確認することをお勧めします。


参考文献・一次情報源